前章

少女回想

 

人が死に絶える。
わたしが生まれるずっと前から言われていること。
どうして滅びるのか、それを調べようとする人はたくさんいた。
でも答えはでなかった。
大人は死に、子供は生まれない。
小さな島からはじまったそれは、世界中に広まった。
自分たちではどうしようもなくなった人間は、神に救いをもとめた。

 

白い壁、白い天井、白い床、白い人たち。
それがわたしの棲む世界。
その中にいるかぎり、なにをしても怒られない。
小さな扉をでたところも白い世界。
ひとつだけある大きな扉には近寄らせてもらえない。
その先も白い世界なのだろうか。
誰に聞いてもおしえてはくれない。

 

白い世界にいたのは三人。
大人は大きな扉からやってきて、でていく。
三人はいつもそこに残された。
大きな扉のむこうは大人の世界と聞かされた。
いつか自分たちもその扉をとおる日がくる。
でもその扉をとおったのは二人だけだった。

 

ある日、白い世界にちがう色ができた。
緑だと教えてくれたのはひとりの大人。
女の人だった。
いつもくる白い人たちとはちがっていた。
白い世界にとどまって、いろんな本を読んでくれた。
その人といるのは楽しかった。

 

その人が緑のものでなにか作りはじめた。
笑いながら、思い出しながら。
できあがったとき鳥だと教えてくれた。
海鳥の胸飾りだと。
弟に渡せたらいいのだけれど、そう言って笑っていた。

 

緑のところにいる人はほかにも大勢いた。
でもその人たちとは仲良くなれなかった。
気がつけばどこかへいって、別の人がやってくる。
それのくりかえし。
どこへ行くのか知りたくなった。

 

ひとつの小さな扉があった。
そこへ緑のところにいた人たちが入っていく。
でも出てくる人はいない。
出てくるのはいくつものおおきな袋。
わたしは入れてもらえなかった。

 

ある日、鳥の胸飾りの人がそこへ行くといった。
行かないで、そう言うとその人はわたしを抱きしめた。
決めたことだから、その人はやさしい声でそう言っていた。
逢えてよかった、そういって胸飾りを渡してくれた。
涙が止まらなかった。

 

白い人が、胸飾りの人が持っていた本と小物を箱に入れていた。
家族のところへ届けるのだと。
箱のふたが閉められるとき、あの人から渡された鳥の胸飾りをそこにいれた。
弟さんに届きますように、そう祈って。

 

どうしてこんなに悲しい思いをしなければならないのだろう。
どうすればこれを止めるられるのだろう。
ずっと泣いていた。

 

それを止めましょう。
はじめてみた男の人はそういった。
わたしならそれを止められると。

 

悲しみを止めるために大きな扉のそとへ行くときめた。
だれもいなくなった白い世界のそとへ。

 

男の人のうしろについて大きな扉をくぐった。

 

そこは真っ暗な世界だった……

  • 筆者
    美月綾乃
«

サイトトップ > 黄昏にたゆたう三人の聖女 > 前章